夏になると、人の命を奪うような水難事故のニュースが後を絶ちません。
フィクションでは、溺れるとバシャバシャと暴れ「助けて!」と、もがきながら大声で助けを求めるシーンがよく表現されますが、人が溺れるとき、水飛沫を上げるほど暴れることは不可能です。
こどもでは、音も立てず声も出せず、周囲に気づかれることなく静かに沈みます。
息を吸い込めば人間の体は少し水に浮く
比重の関係で、水中で人間の体は息を吸えば浮き、息を吐くと沈んでしまいます。
浮くとはいっても全身のたった2%、直立状態になると頭のてっぺんだけ、鼻も口も水面に出ないので息はできません。
では、溺れて「助けて!」と手を上げたらどうなるでしょうか。
指先がその2%になってしまいます。
そして、言葉を出すことは、息を吐くことなので、体が沈みます。
人間の比重
人間の比重は、息を吸った状態で0.98程度になり、真水(比重1.00)より0.02 (1.00-0.98)軽く、身体の体積に対して2%が水の上に浮くことができます。
本能的溺水反応
漫画原作、テレビアニメとしても人気の「SPY×FAMILY」をご存知ですか。
この漫画で、溺れたこどもを助けたワンシーンをきっかけに、その溺れ方が話題となりました。
漫画のタイトルと一緒にSNSで拡散したのが「#溺水反応」です。
プールに落ちてしまった少年が声を上げることなく水中に沈み、近くにいる大人たちは誰も気づかずに溺れるシーンが描かれ、主人公たちが助けて事なきを得ます。
実際に溺れている人は呼吸をするのに必死で、声を出して助けを求める余裕はなくなることが多く、こどもだと溺れた状況を理解できなかったり、溺れていることに自身が気づいていない場合もあり、音を立てることなく静かに沈みます。
そのような溺れ方を、本能性溺水反応と呼びます。
溺れるときは静かに沈む
実は、この現象は「医学的に正しいか」厳密に証明できていません。
医療機関には溺水で意識がなくなった状況で搬送され、どのように溺れたのか、という情報は得られません。
「人を溺れさせて実際の様子を観察」する実験も倫理的には許されません。
ですが、溺れる瞬間を目撃して記録を残した論文や、多くの事例で、溺れるときは静かに沈んでいくことがわかっています。
助けようとするのはリスクが高いこと
もし溺れている人を見つけたとき、まず始めにすることは「助けを呼ぶ」ことです。
溺れている人を直接助けに行かず、すぐ周りにも知らせて、身の回りの浮くものを投げ入れるなどして呼びかけ、119番通報しプロに任せるのが基本です。
ただ、理屈ではわかっていても、目の前で人が溺れていると咄嗟に飛び込んでしまう人がいます。
水に流されたこどもを間近で目撃した親のほとんどが飛び込んでしまうという事故例は数多くあります。
「溺れる者は藁をも掴む」ということわざがありますが、溺れている人は縋る思いで救助に来た人にしがみつきます。
こどもであっても、パニックになり必死の力で暴れているときはライフセーバーでも救助は容易ではありません。
素人であれば尚更、そのあまりの力に、助けに行った人が引きずり込まれ一緒に溺れてしまう二重事故になる恐れもあり、泳いで助けに向かうことはとても危険な行為です。
水難救助で難しい上陸支援
助けた人の方が犠牲になるというニュースもよく耳にしますが、水難救助において非常に難しいとされているのが上陸支援です。
溺れた人をなんとかして引き上げている間、持ち上げている側は完全没水し呼吸が続かず力尽きてしまい命を落とす、そのような例は少なくありません。
水難救助には体力ばかりでなく、安全を担保できる技能が必要です。
冷静な判断を
河川、海岸、火事場、駅のホームからの落下など、咄嗟に「助けに行かなければ」となる場面というのは、身近に、唐突にやってきます。
他人であっても、目の前の人が命の危機にさらされているところに直面すると、救助の到着を待てず、自分が今行かなければ、自分の手で今なら助けられるんじゃないかという思考に至りやすいです。
そこで自分を抑える心、そして、その場にいる人々が止める強力な補助も必要です。
さて、直接飛び込んで助けに行ってはいけないと、ここまで何度も書きました。
でも、講習を通して水難事故を防ぐために必要な知識と技能があることを認定する資格、事故が起こった際の正しい救助法と応急手当の方法を身につけた人が取得できる資格というものもあります。
それを志すことも選択肢のひとつです。
いざというときには落ち着いて対処したいですね。
それでは、また次の更新をお楽しみに。